長女(5歳)と絵本を創った話③
イラストを描こう
プロットは出来上がった。描くべき状況にも目星はついた。
そこで今回は、本文を書く前に、イラストを描いてもらうことにした。
本文を先に書かせて想定以上に筆が乗ってしまった場合、長女の画力では再現不可能な状況が生じてしまうのではないかと危ぶんだのだ。
そんな父の疑念を知らずに、長女はやる気満々で鉛筆を削っている。
箇条書きの最初には、こうある。
①ユニコーンのこには おうちがありませんでした。もり。やま。
これは「お家」を求めて、ユニコーンの子どもが森や山を探して旅をしているという意味だ。
そこで長女に、どんな絵にする?と問いかけたところ、以下のような答えがあった。
「森の中を歩いているユニコーンにする」
その理由を聞いてみると、山よりも暗い森の中のほうが「さびしい感じ」がするから、とのこと。よく考えているではないか。さらに突っ込んで、昼間の森と夜の森、どっちにする?と問うと「夜」と即答。理由は同じく「さびしい感じ」がするからとのことだ。
ここで長女をベタ褒めした。
そうやって絵本の絵で、登場人物の心をあらわすのは、とても良いことだ。読んでいる人に気持ちが伝わるよ、と。すると照れながらも、さらにやる気でみなぎった様子の彼女は、コピー用紙に鉛筆を走らせた。
そうして最初に描きはじめたのが、以下のイラストだ。
やる気が出過ぎたのか、星を描くのが楽しくなってきたのか、どんどん星を追加していく長女に、父は静かに問う。
美しい星空で「さびしい感じ」は出るのか、と……。
すると彼女はハッとした様子で慌ててコピー用紙を裏返した。そうして描き直したのが、こちら。
木については何も指摘していなかったのだが、大きく覆いかぶさるような木々の下を、ユニコーンが歩く構図に変化している。これで闇に包まれた森の印象が大きく変わった。
かくして一枚目の下絵が完成。
ちなみに線がラフなのは、パソコンに取り込んでからフォトショップで線を描くから、大雑把でいいよと伝えていたからである。
どこまで父親が介入すべきか
そもそもの話であるが、この絵本創作プロジェクトに着手する際に、長女と「どこまで父ちゃんが口出しをするのか」という作業方針について話し合っておいた。
その際、私が提示したのは、以下のふたつの進め方である。
【おまかせコース】
長女に自由にやらせる。パソコンを使った作図やDTPについては手助けするが、それ以外のことは全部おまかせ。自由に楽しくやっておくれという方針。
【本気コース】
父が編集者になる。より良い作品作りのために、方法論や技術論を指導する。微妙だと思ったら、容赦なくダメ出しをする。作品の完成度が高まると思うが、本気なので、ときに厳しく、辛い思いをするかもしれない。
これに対して長女は、後者を選んでいた。
「わたしは、いい絵本が創りたい。がんばるから、だいじょ~ぶ~」
妙に間延びした「大丈夫」宣言が気になるところだが、彼女の意図を汲んで私は「編集者」という立場から口を挟むことにした。基本方針は以下のとおりである。
- 感想は正直に言う
- 特に悪手だと思ったことは隠さず伝える
- 技術的なアドバイスは積極的に行う
- ただし、問題提起に留めて、具体的な指示はしない
- 改善策の考案は長女に任せる
- 最終的な判断は長女に任せる
- 良い判断はベタ褒めする
今回のケースでは「星空が美しすぎるのではないか」という指摘はするが、「星がない方がいい」とまでは言わない。「星をなくしたことで、より寂しげな雰囲気が出た」という点は褒めまくる。といった感じだ。
かくして彼女は次女さんが昼寝をしている間、3時間弱ぶっ通しで作業して全9見開きぶん12枚の下絵を完成させたのだった。