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世界地図の創り方④:創作に役立つヒント

当記事は「世界地図の創り方」の第四章です。序文および目次はこちらから。

 

 『氷と炎の歌』シリーズの世界地図を見ることで、いくつかの「世界地図の創り方」のポイントが見えてきました。

  •  物語のモチーフとする歴史的事実があるならば、その舞台となった地域を参考とする

  • 物語のスケール感に合わせて、参考にした地域を拡大・縮小する

  • 物語に必要となる特性を持った地域を切り貼りし、配置を調整する

  • 物語に必要となる部分と、その周辺だけを描き、端まですべてを描ききらない

 これだけでも、世界地図の創作が開始できそうですが、いざ作業を始めるとなると細かな部分で迷いが生じてしまいそうです。そこで、いくつか世界地図を考案する上でのヒントになる考え方を紹介していきたいと思います。
 ただし、作品ごとに求められる「リアリティ」の度合いは異なりますので、紹介する手法や考え方のすべてを採り入れる必要はありません。貴方が創ろうとしている作品における、「その世界観なりの筋道」さえ担保できれば良いのですから。

 

緯度と気候帯を意識する

 世界地図作成の目安として、気候に大きな影響を与える緯度を意識しておくことは大切です。地球と似た惑星を舞台にしているはずなのに、何の説明もなく「極地の凍土帯」と「灼熱の砂漠地帯」が隣り合わせになっていれば、読者やプレイヤーは違和感を覚えることでしょう。ですから、ざっくりとした気候帯と緯度の関係性を覚えておくことは、「それなりのリアリティ」を演出するためにも役立つものと考えます。

熱帯

 南北回帰線(地球上では緯度23度26分22秒)に挟まれた気候帯です。特に緯度0~10度に収まる範囲内では日射量が多く、年中温暖で降水量も多く、熱帯雨林/ジャングルが形成されまます。そして、その周辺には雨季(夏)と乾季(冬)が巡るサバンナが分布します。

乾燥帯

 緯度20~30度に分布する乾燥帯は、その名のとおり非常に乾燥しており、植物がほとんど育たない無樹林気候となります。特に大陸西岸や内陸部には、灼熱の砂漠気候が分布。熱帯や温帯との境界に、かろうじて草や低木が茂るステップが分布します。

温帯

 はっきりとした四季の変化があり、植生が豊かで野生生物も多く、農業に適しているため文明が育まれやすい気候帯です。いわゆる「中世ヨーロッパ」的世界観を描く際には、この温帯を中心に地図を描いていくことになるでしょう。大陸の東岸では緯度30~40度あたり。大陸の西岸では偏西風の影響で60度あたりまで分布することになります。

亜寒帯

 寒暖の差が激しく、夏は暑く、冬は積雪が見られる気候帯。概ね緯度40度以上の高緯度地域に分布します。ロシアや東欧の様子をイメージすると、わかりやすいかもしれませんね。

寒帯

 ツンドラ気候や氷雪気候が属する気候帯。極圏(地球上では緯度66度33分)より高緯度地域に分布します。年間を通じて寒冷で降水量が少なく、人の居住には適しません。北極海岸一帯やグリーンランドが、この気候帯に該当します。

 必要な国や都市の要素を書き出す

 現実世界においては、暮らしやすい土地に人々が集まることで街が生まれ、やがて国が成立します。しかし、創作においては順序を逆転させることが可能です。描きたい物語に必要となる国や都市の特性から、その要件を満たす地理を創っていくことができるのです。そのためにも、まずは必要な国や都市の要素を書き出しておくことが重要となります。
 「砂漠の交易都市」や「大きな港を有する海洋都市」といったように、明確なロケーションのイメージがあれば理想的ですが、「精強な騎士団が守る王国」といった地形を伴わない概要設定でも構いません。「騎士団」のビジュアルイメージが、「甲冑を着込んだ西洋風の騎士」であればイングランドやドイツなど、「曲刀を手にしたアラビア風の騎士」であればアラビア諸国といったように、現実世界の地域に紐づけていくことで創作世界に用意すべき地域を考えていけば良いのです。
 特にゲーム作品では、ロケーションの絵変わりが重要になります。いつまでも似たような風景が続いては、プレイヤーも飽きてしまうことでしょう。砂漠、山岳、海、平原、雪原といったように、次々と冒険の舞台が変わっていくことが求められる場合もあるはずです。
 そうして必要な地域を並べていくことで、その気候帯をすべてカバーするための大陸の広さが自ずと決まっていきます。具体例を挙げて考えてみましょう。
 仮に「砂漠の交易都市」、「精強な騎士団が守る国」、「ヴァイキングのような海賊が暮らす村」、この3つ併存する大陸が必要だとしてみます。まずは、それぞれに必要なロケーションを考えてみましょう。

砂漠の交易都市

 必要なのは「砂漠」と、都市を成立させるための「オアシス」。詳しくは後述しますが、砂漠が分布するのは熱帯から温帯にかけてとなります。中でも隊商が行き交うような広大な砂漠となると、亜熱帯砂漠が向いていそうです。

精強な騎士団が守る国

 西洋風の騎士たちをイメージし、今回はドイツをモチーフに選びます。森林が多い温帯の土地、といったところですね。特に海に面している必要はありませんが、内陸の場合、大きな河川があると物流も促進され、よく街が発展してくれそうです。

ヴァイキングのような海賊が暮らす村

 実り豊かな土地であれば、わざわざ命がけで戦い、他者から富を奪う必要はありません。したがって、農業や牧畜に向いておらず、かつ海に進出する必然性がある立地が必要です。冷涼な亜寒帯の半島などが適切でしょう。

 こうして書き出してみると、今回の大陸は少なくとも「亜熱帯」から「亜寒帯」にかけて広がりを持つ必要があることがわかってきました。この大陸が惑星の北半球にある場合、北部には半島があり、南部には広大な砂漠を内包できるほどの面積がある構造であることも、導き出されてきます。特に必要なロケーションが多くなればなるほど、情報の整理が重要となることでしょう。

旧大陸は東西に、新大陸は南北に長い

 生理学・生物地理学の研究者であるジャレド・ダイアモンドは、その著作『銃・病原菌・鉄』の中で、15世紀以降、「旧世界/旧大陸」のヨーロッパ人が「新世界/新大陸」の人々を一方的に征服し得た要因として、環境決定論的な主張を展開しました。同書においてダイヤモンドは、ヨーロッパ人が先行して社会経済的な発展を遂げることができたのは、人種的に優秀だったからではなく、単に地理的に優位であったために過ぎない――より具体的には、ユーラシア大陸が東西に長い形状をしていたためである、との仮説を提示しています。
 一般向けの書籍として発売された同書は、ピューリッツァー賞やコスモス国際賞といった名だたるビッグタイトルを獲得したことに加え、日本においても邦訳版が朝日新聞読書面の「ゼロ年代の50冊」において堂々の1位に選出されるなど、多方面において高い評価を得ています。一方で、特に海外においては、歴史をあまりに単純化し過ぎているといった批判もあり、専門家の間では評価が別れているようです*1
 とはいえ、同書で提示されている仮説のうち、いくつかの部分については「ファンタジー世界の創作」に役立つヒントになると思われますので、少し紹介してみたいと思います。
  ダイヤモンドの主張によると、文明を発展させる上では、栽培可能な作物(特に穀物)と家畜化可能な動物(特に大型哺乳類)を、いかに多く手に入れられるかが重要となるそうです。
 たとえば、小麦や稲といった収量が多く栄養価の高い穀物があれば、より多くの人口を安定して支えることが可能となります。こうして生じた余剰食料が、結果として食糧生産に直接的に従事しない人々、すなわち、司祭や職人、軍人といった階級の人々を社会として養うことを可能とし、文明の発展を促すという主張です。
 また、馬や牛といった大型哺乳類は、肉や乳で腹を満たし、毛皮で身体を温めてくれるだけでなく、人や荷物を背に乗せることで陸上輸送の手段になる上、重い犂のような農具を引かせることで農作業にも役立てることができます。馬を持つ文明と持たない文明、どちらが発展の速度が速いか――確かに、そう問われると前者の方が有利なように思えます。
 しかし、作物や家畜を遠くまで持ち運んだ上で栽培、飼育しようとなると、その成否は気候に大きく左右されることになります。温暖な土地でよく育つ小麦も、寒冷地では育ちにくくなるでしょう。家畜も同様で、寒冷な環境に適応して豊かな毛を持ったアルパカのような動物を、酷暑の熱帯地域に持ち込めば、たちどころに衰弱してしまうはずです。つまり、作物や家畜は「南北軸」の移動に弱いのです。
 逆に、緯度が変わらない地域であれば気候に差が少ないため、作物や家畜の移植も比較的容易となります。したがって、「東西軸」に長いユーラシア大陸では、自分たちの土地で発見した種だけではなく、別の地域を原産とする種の作物や家畜を利用できる可能性が高く、結果として文明の発展スピードも早くなるのではないか、というわけです。
 果たしてダイヤモンドの仮説が本当に正しいのかどうか――そのあたりは、専門家による議論の推移を見守るとして、特にこだわりがないなら創作世界における大陸のシルエット考案の指針にしても良さそうです。
 「中世ヨーロッパ」的な地域を創りたい場合は、「東西軸に長い大陸」を描いた上で、その中から農業や酪農に適した「温帯」に属する緯度の地域を見繕い、ディテールアップしていく……といった具合です。
 一方で、「新大陸」のようなフロンティアを舞台にしたいのであれば、「南北軸に長い大陸」を描き、そこからジャングルであれば「熱帯」といったように、作品のシチュエーションに適した気候の土地を選んでいけば良いでしょう。

地政学的な見方から海岸線を描く

 大陸のシルエットを細かく詰めていく上では、地政学的な考え方が手助けとなります。
 海岸線が複雑なほど、そして山脈や砂漠が多いほど、地域間の陸上移動は難しくなります。モノやヒトの流れを阻害する海、山、砂漠は、陸上戦力の移動をも阻む天然の障壁となるのです。したがって、征服戦争が成功し難く、小規模の勢力がひしめき合う競合的な社会が生まれやすい環境と言えるでしょう。
 これに対し、海岸線がシンプルで地形がなだらかなほど、地域間の陸上移動は楽になるため、陸上戦力を有する国家による征服が容易となり、統一的な社会が生まれやすいものと想定できます。
 強大な大陸国家を舞台にしたい場合は、ロシアや中国などを参考に海岸線はシンプルに、多数の勢力が並び立つ群雄割拠の状態を描きたいなら、ヨーロッパやアフリカなどを参考に入り組んだ海岸線を描くように心がけると良いでしょう。
 また、地政学的には海岸線の長さによって、その国が「シーパワー」と「ランドパワー」のいずれに向かいやすいのか、方向性が決定されると考えられます。イギリスのような島国は、四方を海に囲まれているため海岸線が長く、必然的に「シーパワー」の国へと向かう傾向がある――といった具合です。そのような海洋国家は、制海権を掌握することで軍事・経済の両面で躍進していきます。また、他国と直接的に国境を接していないため、国防のために多数の陸上戦力を保有する必要がなく、海上戦力の拡充に力を注ぎやすいという特性もあるのです。
 これに対して、三方を海で囲まれた半島は、海に進出しやすい特性では似ているものの、陸に面した大陸側に強大な大陸国家が誕生した場合、袋小路に追い詰められる格好となってしまいます。したがって、内陸側の政情の影響を受けやすく、大陸国家と激しく戦うか、あるいは服従を選ぶのか、その関係性は目まぐるしく変化することとなります。
 そして、大陸の中央部やその周辺を軸にした「ランドパワー」の国は、農作物の生産性を重んじ、陸上の領土を拡大し続ける傾向があります。その過程において、陸上戦力の強化が重要となり、覇権を得る頃には強大な陸軍力を保有することになります。
 こうして考えてみると、いろいろとファンタジー世界の地図を創作する上で、参考になる要素が見つかってくるのではないでしょうか。地政学では地形的な環境から、国の政治、軍事、経済に及ぼす影響を検討しますが、創作においては舞台となる国の性質から、描くべき地形を決められるわけです。
 先にも例に出した「ヴァイキングの的な勢力」を作中に登場させたいのであれば、創作世界の地図に「シーパワー」が発揮できる島か、複雑な海岸線を持つ半島を描き、その領土とする――「モンゴルの騎馬民族的な勢力」が必要なのであれば、大陸の中央に馬を養える環境を持った広大な土地を用意し、海岸線はなるべくシンプルなものとして描く――といった具合です。

障壁として山脈と砂漠を描く

 先にも少し述べましたが、山脈や砂漠は、海と同じく陸上移動を阻む障壁となります。それゆえに異なる勢力の領土を区切りたいときに、これらの障壁は手っ取り早い手段となるのです。
 その際にリアリティを追求したいのであれば、特に砂漠の形成要因に留意しながら配置すると良いでしょう。

熱帯砂漠

 緯度10~20度の大陸西側に、海岸線に沿うように形成される砂漠。大陸の西側に面した海洋には、赤道に向かって寒流が流れます。その影響で十分な水蒸気が発生しないため、霧は発生しても雨雲に発展することがなく、そのまま風に押し流されてしまうことで沿岸部は極度に乾燥した状態となります。

亜熱帯砂漠

 緯度20~30度に形成される砂漠。年間を通じて高気圧の影響を受けることで生じるため、非常に大規模な砂漠になることが多いようです。

温帯砂漠

 緯度35~50度に見られる砂漠で、「内陸砂漠」と「雨陰砂漠」がこれにあたります。
 「内陸砂漠」とは、その名のとおり海から遠い場所に生じるもので、単純に洋上から水蒸気の供給を得られないために形成される砂漠です。
 一方、「雨陰砂漠」とは海からの距離は近いものの、その間に山脈があることで形成される砂漠のことを指します。湿った空気が山脈にあたって雨雲となることで沿岸部のみを潤し、山向こうの一帯が水蒸気を得られず砂漠化が進行します。したがって、山脈とセットで配置すべきと言えるでしょう。

大河のラインを引く

 水と土を上流から運んでくれる河川の流域は農業に適している場合が多く、人の居住に適しています。特に河川が海に注ぐ河口付近は、堆積物によって三角州が形成されることがあり、農地として発展を遂げやすい環境と言えるでしょう。また、ある程度の大きさの船が通れる「可航河川」は、舟運に利用できるため、物流という意味においても有益です。
 そのため、たとえばドイツではライン川ドナウ川の流域に数多くの街が造られ、歴史の流れの軸となってきました。
 また、河川には「境界」としての性質もあります。川幅が広い大型河川の場合、渡河するのは至難の業です。そこで、隣接する勢力の境になりやすく、橋が架けられれば交通の要衝となっていきます。
 こうした「境界」としての性質をよく利用しているのが、アンドレイ・サプコフスキのファンタジー小説『ウィッチャー』シリーズ*2です。同作の作品世界は、数多くの国が乱立した大陸北部に、南方から強大な覇権主義国家「ニルフガード帝国」が迫るという構図が描かれていますが、その際に焦点となるのが大陸を東西に貫く大河「ヤルーガ川」の存在です。帝国の軍勢がヤルーガ川を渡ってくるのかどうか、そのあたりが物語において重大事として描かれています。
 河川を描く際には、文明の発展を促す側面、物流の動脈としての側面、さらに境界としての側面を意識しながら地図上にラインを引いていくと良いでしょう。
 なお、河川は湖に注ぎ込む場合もあります。そして、湖に注ぎ込んだまま消える河川もありますが、多くの場合、湖からは海へと通じる河川が流れ出すことになります。
 こうして河川のラインを地図上に引きながら、同時に主だった湖沼の場所も決めてしまいましょう。そうすることで基本的なアウトラインが出揃うはずです。さらに気候帯と地形をイメージしながら、そこが森林であるのか、あるいはステップなのかと植生を決めていけば、いよいよ自然環境も決まってくることでしょう。あとは文明の痕跡を乗せていくだけです。

街の立地を調整する

 街が成立する場所には、農業に適した肥沃な土地であったり、港を造るのに適した海に面していたり、さまざまな要件があります。
 逆説的に言えば、描きたい街の要件に沿うような立地に調整してやれば良いということ。では、どんな場所が街の成立に有利なのでしょうか?

河川の流域

 前項で説明したとおり、河川の流域は人の居住に適しており、街が発展しやすい傾向にあります。特に舟運に用いることができる大型河川の場合、輸送のハブとしても発達します。また、河川にはエネルギー源としての機能もあります。水車を建設することで、穀物を挽いたり、羊毛を縮絨したり、あるいは木材や石材を切って加工することも可能でしょう。さらに皮革産業や染め物にも大量の水が必要となるため、河川の流域で、そのような産業が発展することもあります。これに加え、渡津と呼ばれるような渡し船や橋梁によって、河川を渡ることができる場所も交通の要衝として、街が発展しやすい立地と言えます。

沿岸部

 海洋へと進出しやすい沿岸部もまた、街が築かれやすい傾向にあります。湾や入り江、陸繋島*3に面した場所は比較的波が穏やかで港が作りやすく、周辺の海域で魚介類が採れる場合は、漁港として発展する可能性を秘めています。また、河川が海に注ぐ河口にある場合、舟運によって内陸部へと物資を運搬するためのハブとしても重要な役割を占めることになるでしょう。特に「中世ヨーロッパ」的な世界観を採用する場合は、大規模な埋め立て工事などが行いにくいため――魔法などの代替技術がないのであれば――「天然の良港」と呼ばれるような、もともとの地形を活かせるような立地条件を選んであげる必要があるかと思います。
 なお、必ずしも良港という訳ではありませんが、海峡の両端は、そこを通過する船を見張ることができるため、交通と軍事の両面で重要度の高く、街が築かれやすいと言われています。

湖岸

 多くの場合、湖は河川を通じて海や水源となる高地へ通じています。そのため、舟運のハブとなる可能性を秘めていると言えるでしょう。また、湖は優れた漁場となることもあるかと思います。

平地や盆地

 地形がなだらかな平地は、とにかく開発が容易であるという点において、街が発展しやすい傾向にあります。盆地は、山に囲まれているという点において制約がありますが、それでも平地と同様に開発が容易な地形と言えるでしょう。

山の麓

 山から得られる恵みを集積し、そこから低地へと向けて流通させたり、あるいは山越えの峠道の玄関口として機能する立地です。山岳部で羊や山羊を飼う人々が、その肉や乳、羊毛や毛皮などを降ろすための市場町、あるいは山越えに備えた人々が休み準備するための宿場町などが栄えます。山が国境線になっている場合は、国境を守るための防衛拠点として重要視される可能性もあるでしょう。同様に、滝線――あるいは瀑布線――と呼ばれる滝の近くもまた、河川を通じた舟運の終着点となるため、人や物資が滞留するハブとなることがあります。

街の役割から位置を調整する

 もう少し、街の位置について考えてみましょう。優れた環境から主要な街が成立し、発展を遂げて人口が増えていくと、やがて街から出た人々によって、その周辺地域に子供のような集落が築かれていきます。親となる街から、ある程度の物資などを得ることができるため、子となる街の立地条件は、ある程度、緩和される形になります。そうして親から子、子から孫と、集落が分派して増えていくことになるのです。
 また、主要な街同士を結ぶ、街道や運河の間には、物流の中継地点として宿場町が転々と形成されていくはずです。その際の宿場町の間隔は、一日にどの程度の距離を進むことができるのか、といった運送力や人の暮らしを最低限維持できる要素――水源など――の有無によって決まってくるでしょう。
 また、おおよそ街の建設には不向きな場所にも、さまざまな理由によって街が生まれていきます。その例を考えていきましょう。

宗教上の理由

 霊峰と呼ばれるような険しいものの神秘的な雰囲気を有する場所には、神霊を祀る神殿や仏閣などが築かれることがあります。すると、それらの宗教施設を参拝するために人々が遠方より訪れるようになり、宗教都市や門前町などが成立するようになります。
 また宗教上の理由によって修行や瞑想を行うため、そして俗世と自身とを切り離すために、宗教者が意図的に険しい地形で暮らすことがあります。険しい岩山の頂きに築かれた寺院や修道院といったものが、この例にあたるでしょう。

軍事上の理由

 国境線には、隣接する敵対的な勢力の侵入を警戒するために砦や城が築かれます。すると、その砦や城に詰めている兵力を維持するために、周辺に街が築かれるケースも出てきます。 
 なお、国境には大きく自然的国境と人為的国境に大別できます。
 自然的国境とは、山や河川、湖、海など、自然地理学的な障害を境としたもの。これに対して人為的国境は、戦争の結果や条約締結などに伴って、人と人との取り決めによって生じたもの。後者は、必ずしも障害となる地形とは限らず、街の中に引かれる場合すらあります。
 こうした国境に面した場所には、関所が設けられることもあり、交通の要衝ともなり得ます。

*1:日本においては手放しで称賛されるケースが多い『鉄・病原菌・鉄』だが、英語圏では早期の内から様々な温度感の書評が出ており、各分野の専門家から多くの指摘が相次いでいる。この辺りの事情については「J-STAGE」掲載の『日本の地理学は『銃・病原菌・鉄』をいかに語るのか ―英語圏と日本における受容過程の比較検討から―』に詳しい。

*2:原題は『Saga o wiedźminie』。日本においては当初『魔法剣士ゲラルト』というタイトルで翻訳版が出版されていたが、CD Projekt REDによるRPG作品『ウィッチャー3 ワイルドハント(原題:The Witcher 3: Wild Hunt)』がヒットしたことに伴い、邦題シリーズ名を『ウィッチャー』に改めて再刊行された。近年ではNetflixによるテレビドラマ版「ウィッチャー」も人気を博している。

*3:陸繋島とは、かつて島であったものが近くにある大きな陸地と繋がった地形のこと。沖からの波が打ち消されるため、天然の良港になりやすい。