差替文庫

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長女(5歳)と絵本を創った話⑤

本文を書こう

すべてのイラストの準備が完了したら、次は本文だ。

さすがに5歳児の長女はタイピングできないため、イラストと箇条書き形式のプロットを交互に確認しながら、長女が語った言葉を書き留める口述筆記形式をとった。

 

結果から言えば、思いの外、本文作成はスムーズに進んだ。

このあたりは、毎日のようにやっている「お話」遊びが功を奏したと感じている。これは絵本の読み聞かせに替えて、最近、寝かしつけの定番となっている遊びだ。

例えば「ウサギ、まんじゅう、宝石」のように一見すると関係のない「お題」を2つ3つ決めてから、その要素すべてを使った「お話(物語)」を即興で作るという極めてシンプルなルールの遊びである。ただし、参加者(大抵の場合は、長女と私で行われ、次女が入ることも増えてきた)が一節ごとにリレー形式で引き継がれていくため、展開が読めず油断ならない。ハッピーエンド至上主義者の長女は平和裏に事を運ぼうとし、性根の腐った父はシュールな展開を挟みたがり、お笑い重視の次女は登場人物を次々とマッチョ化させていくため、毎度、迷作が出来上がるのだが、それはそれだ*1

ともかく、この遊びを通じて「昔話や絵本のような形式で文章を紡ぐ」という力が付いていたのではないかと思う。おかげで、絵本らしい文章がスルスルと紡がれていく。まさか、こんなところで役立とうとは……。

 

時折、夢中になりすぎた長女が展開を急ぐあまり、一文が長くなってしまうことがあるため、そこは適度に切るように促した。ただし、文章表現に限って言えば、ほぼ独力で最後まで彼女は語り終えたと思う。

特に個人的に注意したのが、大人の視点で彼女の表現を歪めてしまわないこと。冒頭の「ちきゅうのどこかに おうちがない ユニコーンのこどもがいました」という一文についても、「地球の何処か」という書き出しには多少の違和感を覚えるところだが、それはそれで彼女の「味」なのだからと手出しは控えた。

また途中、ファンタジー世界にはそぐわない「スーパーヒーローのように」という比喩が現れるのだが、ファンタジー作品のみならず「プリキュア」や「スパイダーマン」、「パジャマスク」なども等しく楽しむ5歳児の世界観では、勇気を表す表現として「スーパーヒーロー」を用いることは、ごく自然なことなのだろうと考え、そっとしておいた。

 

さらに言えば、結果論だがイラストを先に仕上げておいたことも良かったと思う。絵的に表現されていることを、ストレートに本文に落とし込むことで、冗長だったり、イラストに盛り込めなかったことを、すっぱり除去できたため、物語もスッキリとしたのだ。

本文に関して言えば、ほとんど障害らしい障害なく作業を終えることができたのではないだろうか。

 

編集作業は父ちゃんの仕事

本文が仕上がったなら、あとは父ちゃんの仕事である。PhotoshopInDesignを使って入稿用データを作り、ひとまずpdf化して絵本としての仕上がりを長女に確認してもらう。

これと並行して私は、KDPこと「Kindle ダイレクト・パブリッシング」を利用した電子書籍出版に向けて、仕様や登録方法などをお勉強。絵本作りということで「Kindle Kids' Book Creator」を使おうと思ったものの、日本語に対応していないということで諦め、「Kindle Comic Creator」に切り替えて、試しにmobiファイルを作成してみた。

正直、今の形が読みやすいのかどうか、よくわからない。もう少し良い方法があったのかもしれないが……いまは、その辺りを突き詰めることよりも、リリースを楽しみに待つ長女のためにも、完成した作品を手早く出版することを選ぼうと考えた。

だが、mobiファイルの作成過程で、出版するためには著者名を決めなければならないことに気付かされた。長女には、まだやるべきことが、ひとつ残されていたのだ。

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完成した最初の見開き

 

ペンネームを考えよう

まだ未成年、しかも5歳児の本名を安易に晒すことは避けるべきだろう。

ということで、長女にはペンネームの概念を教えて、自分で命名するようにと促した。

最初に出てきたのは「マリー」という名前だった。

この名は、はじめて共に遊んでクリアしたRPGポケットモンスター ソード&シールド』に登場する「マリィ」というキャラクターに由来する。何を隠そう長女は、このマリィが推しキャラなのであり、これ以来、ゲームをプレイする際には、かならず「マリー」という名前を使っているのだ。

一方、名字の命名には少し時間がかかった。

しばし考え込んでいた彼女が選んだのは「うみな」というもの。理由を聞くと「海が好きだから」であり、「な」は「さわやか~って感じだから」とのこと。

どう爽やかなのかは彼女の感性なので置いておくとして、兎にも角にも、こうして「うみな まりー」が誕生したのだった。 

 

 無事出版

そんなこんなで、無事に「うみな まりー」著『ユニコーンとにじのじょおう』がKindleストアにて出版と相成った。

販売開始後、やっぱりこの文はなくしたいんだけど……と、本文の修正を試みようとする長女を(ブラッシュアップに余念がない姿勢に関心しながらも)、リリースしたのだからとやんわり諌めつつ、動向を見守ったこの3日間……。

利益分配レート70%の下限価格とはいえ「250円」という5歳児の作品としては強気すぎる値段設定にも関わらず、思いがけず、多くの方に購入いただけたことは、父親としてただただ感謝するしかない。一時は、日本Kindleストアの「絵本」カテゴリにおいて、売れ筋ランキング2位、新着ランキング1位という予想外の結果を残すことになった。

発売3日目である現時点で、すでにロイヤリティは予定していた印刷費に必要な金額を上回っており、長女の希望どおりに製本することが可能な状況となっている。彼女が裏表紙も創りたいと言っているため、その作業が残されているものの、無事に絵本創作プロジェクトは完遂することができそうだ。

購入・購読していだいた方、感想やレビューを送ってくださった方、心より御礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。

*1:実際に作られた迷作のひとつ、「ムキムキ山」を例として紹介しよう。この物語のお題は「タヌキ」と「おにぎり」のふたつ。ベースラインは昔話「カチカチ山」に似ており、親切な老女を暴行して逃亡した悪いタヌキを、ウサギがこらしめるという内容だ。だが筋書きは微妙に異なり、登山中にビルドアップしてマッチョ化したウサギが、背後からタヌキを羽交い締めにした末に山から海まで投げ飛ばす。そして真摯に反省したタヌキと老婆は和解。マッチョウサギを交えて、浜辺でおにぎりパーティーを繰り広げてハッピーエンドを迎えるのだ。